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企業買収はビジネスの成長における重要な戦略ですが、その成功はデューデリジェンスの質に大きく左右されます。デューデリジェンスとは買収対象企業の全容を理解し、隠れたリスクを明らかにするための調査プロセスです。
しかし、デューデリジェンスは複雑であり、多くの企業経営者やM&A担当者にとっては、適切な進め方や注意点が必ずしも明確となっていません。この記事では、デューデリジェンスを成功に導く「5つのステップ」と、注意点を解説します。
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デューデリジェンスとは?
デューデリジェンスとは、投資やM&Aの前に行われる調査のことです。デューデリジェンスより、投資先企業の価値やリスクを詳細に分析します。
主にビジネス、財務、法務の側面から企業を評価し、隠れた問題を明らかにすることが目的です。デューデリジェンスは、M&A後の不測のリスクを避けるために不可欠と言えます。
デューデリジェンスは専門性が高く、公認会計士や弁護士などの専門家が実施することが一般的です。専門家は企業の財務状況、法的問題、営業状況などを徹底的に検証し、適正な企業価値を評価。
デューデリジェンスでの調査によって得られた情報は、買収価格の交渉や契約条件の設定に影響を及ぼします。売主側にとっては調査への協力が求められ、M&Aを成功に導くための重要なステップです。
デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスは企業買収における必須の調査プロセスです。「リスクを特定し評価する」ことと「企業価値を適切に評価する」ことが目的とされ、買収の成功に不可欠な役割を果たします。それぞれの目的を解説します。
リスクを特定し評価をするため
デューデリジェンスはM&Aなどの企業取引において、対象企業のリスクを明らかにし、その価値を正確に評価するための重要なプロセスです。
具体的には、財務リスク、運用リスク、法的リスクなど、さまざまな側面から対象企業を詳細に調査します。買収を検討している企業は、取引によって得られるメリットと潜在的なリスクを総合的に理解し、適切な意思決定を行うことが可能です。
デューデリジェンスは、売り手にとってもメリットがあります。事前に問題点を把握し対応策を講じることで、取引後のトラブルを回避できる可能性が高まるでしょう。
また、リスクが明らかになった場合、その負担をどちらが担うかをM&A契約書に反映させることで、双方の間でリスクを適切に配分することが可能になります。
デューデリジェンスのプロセスは買収後の不測の事態を防ぎ、企業価値を正確に把握するために専門家の知見を借りて行われることが一般的です。
企業価値を適切に評価するため
デューデリジェンスの重要な役割の一つは、取引対象の企業価値を正確に評価することです。企業の財務状態、市場での立ち位置、競争力、将来性を綿密に分析し、その価値が取引の価格に見合っているかを判断します。
単に数字を検証するだけではなく、対象企業が抱える潜在的なビジネスチャンスやリスクを明らかにし、自社にとっての真の価値を見極めることにもつながります。
デューデリジェンスによって明らかにされた情報は、買収後のビジネス展開や戦略立案の基盤となり、M&Aの成功に不可欠な要素です。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスは、M&Aなどの企業買収における重要な手続きです。このプロセスを通じて、買収対象の企業のさまざまな側面が詳細に調査されます。
デューデリジェンスには、ビジネス、財務、人事、法務、セルサイド、IT、不動産といった種類があります。各分野でのデューデリジェンスは、買収に際してのリスクを把握し、適切な評価を下すために不可欠です。ここでは、デューデリジェンスを種類別に解説します。
ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスは、M&Aで対象企業の事業本質を深堀りする調査のことです。企業のビジネスモデル、市場環境、競争状況、技術動向、法規制の変化など、幅広い側面からの分析が行われます。
ビジネスデューデリジェンスの目的は、企業の将来性、安定性、取引価格の適正性を判断することです。調査と分析を通じて、M&A後の価値向上やシナジー効果の可能性を評価し、投資の妥当性を確かめます。
ビジネスデューデリジェンスは、事業の継続性や成長潜在力を見極めるために、キーパーソンへのインタビューや主要文書の精査が不可欠です。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、M&Aにおいて対象企業の財務情報の真実性を検証し、その財務状態を正確に理解するためのプロセスです。
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を分析し、事業の収益性やキャッシュフロー、資産の実態や負債の有無を評価。税務上の問題や将来の事業計画に基づく財務予測も検討されます。
財務デューデリジェンスを通じて、買収価格の妥当性を判断し、隠れた財務リスクを明らかにすることで、M&Aの成功に不可欠な情報を得ることが可能です。
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスは、企業買収時に対象企業の人材と組織の現状を調べる重要なプロセスです。従業員のスキル、役割、組織構造、人事政策、労使関係などを理解することを目的としています。
キーパーソンの評価や将来の人事統合計画に役立つ情報を収集し、M&A後のスムーズな運営とシナジー効果の最大化を図ります。異業種間のM&Aや人材確保を目的としたM&Aが増加している現代において、人事デューデリジェンスは買収側企業にとって不可欠です。
調査結果は、M&A後の組織統合や人事戦略の策定に直接影響を与えるため、丁寧に実施することが求められます。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、企業買収において法律上の問題点を明らかにするための調査です。対象企業の許認可の状況や訴訟リスク、企業価値や事業計画への影響を及ぼす可能性のある法的問題を特定します。
許認可の有効性や訴訟の存在は、事業の継続性に直接影響を与えるため、重点的な調査が必要です。法務デューデリジェンスでは、会社の組織構造、株式関連情報、従業員や業務に関する法的文書を含む多岐にわたる資料が調査対象となります。
法務デューデリジェンスは、買収後のリスクを最小限に抑え、スムーズな事業運営を支援するために不可欠です。
セルサイドデューデリジェンス
セルサイドデューデリジェンスは、売主側が自らの費用で実施する調査です。企業売却の価値を最大化し、買主側によるデューデリジェンスを円滑に進めるために行われます。
対象企業の財務状態、税務問題、事業計画の妥当性、人事や労務問題など、買主からの指摘が予想される事項に対して事前に対策を実施。セルサイドデューデリジェンスを行うことで、売主は自社の問題点を把握し、改善する機会を得ることができます。
費用は売主が負担しますが、将来の経営改善にも役立つため、セルサイドデューデリジェンスの有効な戦略です。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスは、対象企業の情報技術システムの詳細調査を行うプロセスです。事業の効率化、管理、会計などに使用されるシステムの査定や、M&A後のシステム統合に伴う障害や投資費用を予測します。
ビジネスのIT依存度が高まる中、ITデューデリジェンスは、経営者が自社のIT資産と戦略を全面的に理解し、買主の質問に適切に対応できるようにするために不可欠です。
対象となるのは、組織の情報システム構造、アプリケーション、インフラ、コスト、システム管理人材、セキュリティなど広範な領域にわたります。
ITデューデリジェンスにより、ITリスクの評価、セキュリティ問題の特定、システムの効率性の検証が行われ、M&A後のIT戦略立案に役立ちます。
不動産デューデリジェンス
不動産デューデリジェンスは、買収予定企業が所有する不動産資産の詳細な調査を行うことです。不動産の市場価値、投資収益性、立地条件、建物の物理的状態、法的遵守状況などを明らかにします。
所有権の確認や登記状況、土地の利用可能性、建築基準法への適合性など、法的な側面も検証し、買収後に発生する可能性のあるリスクを予測します。
不動産デューデリジェンスは、特に不動産が主要な資産となる企業買収において重要であり、買収成功のために不可欠なステップです。
デューデリジェンスにかかる費用
デューデリジェンスにかかる費用は、買収の規模や対象とする企業の内容によって異なります。弁護士、公認会計士、税理士などの専門家への依頼により発生し、その知識や経験に応じて費用は変動するのが一般的です。
法務や財務、税務のデューデリジェンスを実施する際には、専門家一人当たり1日に数万円から数十万円程度の費用がかかります。報告書の作成には数日を要することもあり、総額では数百万円から数千万円に及ぶことも珍しくありません。
中小企業のM&Aの場合でも、法務と財務、税務デューデリジェンスだけで100万円以上の費用が必要となることが多く、その他のデューデリジェンスを加えるとさらに高額になります。
企業の規模や取引の複雑性によっては、デューデリジェンスの総費用が1億円近くに達することもあるため、事前にしっかりと計画を立てることが重要です。
デューデリジェンスにかかる期間
デューデリジェンスにかかる期間は、企業買収の複雑性や対象企業の規模によって変わりますが、一般的には約1~2ヶ月が目安とされています。この期間は、買収対象企業のビジネスのあらゆる側面を詳細に調査し、潜在的なリスクを評価するために必要です。
調査範囲はビジネスモデル、財務状況、人事、法務、ITシステム、不動産など多岐にわたり、各分野の専門家による詳細な分析が行われます。
デューデリジェンスのプロセスは、市場の変動やビジネスチャンスのタイミングを逃さないために迅速に行う必要があるため、効率的なスケジュール管理が不可欠です。
買収を成功に導くためには、この期間内に可能な限り多くの情報を収集し、適切な評価を下すことが重要となります。
デューデリジェンスの進め方・5ステップ
デューデリジェンスの進め方は、企業買収を成功に導くための重要なプロセスです。このプロセスは、主に5つのステップに分けられます。
買収方針を明確に決め、次に必要な書類を詳細に分析。現地での確認を行い、経営者や重要なスタッフに対して聞き取り調査を実施します。最終的には、収集した情報をもとに結果を検討し、買収の是非を決定します。
①方針を決める
企業買収におけるデューデリジェンスの最初のステップは、方針の決定です。買収を検討している企業内でキックオフミーティングを開催し、買収の担当者や経営陣、必要に応じて法務、財務、人事などの各分野の専門家が集まります。
デューデリジェンスを行う項目の選定や、重点的に調査すべき事項、予算の設定、そしてスケジュールの策定などが主なタスクです。
買収対象企業の機密情報にアクセスするため、秘密保持契約の締結もこの段階で行われます。適切な準備と方針設定は、その後のデューデリジェンスの効率性と有効性を大きく左右するため、非常に重要なプロセスです。
②必要書類を分析する
デューデリジェンスの第二ステップでは、買収対象企業から提供された資料の分析を行います。事前に準備されたチェックリストに従って、財務状況、契約書類、業務運営に関わる重要な書類などを精査。
資料の内容が企業の現実と一致しているかを確認し、情報の正確性や完全性を検証することが重要です。
資料の分析だけでは解明できない疑問点や不明点については、直接対象企業の関係者にヒアリングを行います。必要に応じて現地訪問を含む実地調査が行われることもあります。
デューデリジェンスの第二ステップは、買収後の統合計画やリスク評価に直接影響を及ぼすため、重要です。専門家と連携しながら、買収対象企業の真の価値を見極め、買収におけるリスクを最小限に抑えることが目指されます。
③現地確認をする
デューデリジェンスの第三ステップは、現地での確認作業です。特に、ホテルや旅館、ゴルフ場など、不動産を中心としたビジネスを対象とするM&Aでは、実際にその場所を訪れ、目で見て確かめます。
現地確認では、不動産の物理的な状態や立地条件、周辺環境を把握することが目的です。
実地調査には、専門家を含むデューデリジェンスチームが参加し、不動産の耐震性や劣化状態、建築基準法への適合性など、資料だけでは分からない細かな情報を収集します。
権利関係や登記状況に関する確認も行われ、後に紛争やトラブルの原因となり得るリスクを事前に特定します。
④経営者などに聞き取りを行う
デューデリジェンスの第四ステップは、経営者や重要な担当者への聞き取り調査です。書類やデータの分析だけでは得られない、企業の経営方針や将来計画、潜在的なリスクや機会について直接話を聞きます。
聞き取りは、対象企業のオフィスや工場などの現地で行われ、ビジネスの実態をより深く理解するために不可欠です。
事前に調査項目に優先順位をつけ、限られた時間内で重要な情報を収集する計画が求められます。聞き取り調査は、経営層のビジョン、企業文化、従業員の士気、市場や業界の見通しなど、数値では表せない情報を得るために不可欠です。
このプロセスは、将来的な経営統合においても重要な役割を果たし、買収後のシナジー効果や統合計画の策定に大きく寄与します。経営者やキーパーソンとのコミュニケーションを通じて、買収後の計画に対する理解と合意を深めることも、このステップの目的の一つです。
⑤結果を検討する
専門家から提出された報告書の詳細な検討が、デューデリジェンスの最終段階です。報告書には、対象企業の財務状況、法的リスク、業務プロセス、市場環境、人材など、多岐にわたる情報が記載されています。
譲受け企業の経営陣は、この報告をもとにM&Aの可否、さらなる交渉ポイント、価格の見直し、リスクの軽減策などを議論します。
報告書に記載された事実だけでなく、その背後にあるビジネス上の意味合いや将来に及ぼす影響を正確に理解し、評価することが大切です。必要に応じて、譲渡企業に対して追加の説明を求めたり、特定の問題点に対する解決策を提案してもらうこともあります。
デューデリジェンスの結果をもとに、M&Aの条項や条件を見直し、交渉を進めることが一般的です。最終ステップでは買収後の統合計画や戦略も再評価され、必要に応じて調整が行われます。最終的には、報告書の内容と企業戦略を照らし合わせ、M&Aの成功に向けて最善の決定を下すことが求められます。
デューデリジェンスの注意点
デューデリジェンスにはいくつか注意点があります。
デューデリジェンス実施における注意点
* 調査項目に優先順位をつける
* M&Aの規模に見合ったデューデリジェンスを実施する
* 情報の取扱いに細心の注意を払う
* 対象企業は協力的に情報提供を行う
上記を守ることで、デューデリジェンス精度があがります。それぞれ解説します。
調査項目に優先順位をつける
デューデリジェンスを行う際、限られた時間とリソースの中で重要な情報を確実に掴むことが重要です。そのため、調査項目には優先順位をつける必要があります。
買収対象の企業の事業内容や業界の特性、買収の目的などを総合的に考慮して、どの情報が買収成功に最も影響を及ぼすのかを見極めることが大切です。
たとえば、特定の業界においては法的コンプライアンスや特許などの知的財産の確認が最優先事項になることもあれば、別のケースでは財務状態や市場ポジションの確認がより重要になることもあります。
専門家と綿密に協力し、効率的かつ効果的なデューデリジェンスプロセスを設計することが、M&Aの成功に直結します。
M&Aの規模に見合ったデューデリジェンスを実施する
デューデリジェンスはM&Aの規模に応じて適切に実施する必要があります。小規模な取引では広範囲にわたる深入りした調査は不要かもしれませんが、大規模な取引では詳細な調査が必要です。
調査範囲が不十分だと、見落としたリスクが将来的に問題となる可能性がある一方で、必要以上に調査範囲を広げれば、コストと時間の無駄につながります。
調査費用と期間も考慮し、M&Aの目的や戦略に照らして最も重要な調査項目に焦点を当てることが肝心です。調査の質を確保するためにも、適切な専門家に依頼し、対象企業の協力を得ながら計画的に進めることが求められます。
情報の取扱いに細心の注意を払う
デューデリジェンスの過程では、対象企業の機密情報に深く関わるため、情報の取扱いには最大限の注意が必要です。秘密保持契約(NDA)の締結は必須であり、双方が情報を守る法的責任を負うことになります。
特に個人情報や財務データなどの敏感な情報は、不適切な取扱いが法的問題や信頼損失につながるため、細心の注意が必要です。情報の必要性とその使用目的を明確にし、関係者のみがアクセスできるように制限を設けることが求められます。
対象企業は協力的に情報提供を行う
デューデリジェンスの過程では、譲渡企業側の協力が不可欠です。譲受け企業から求められた資料や情報の提供、さらには聞き取り調査への協力は、M&Aの成功に向けて重要な役割を果たします。
譲渡企業側は自社のリスクや課題を隠さずに開示することが求められます。開示の透明性は、両社の信頼関係を築き、将来的なトラブルを避けるためにも不可欠です。
隠ぺいや情報の不正確な提供が後になって明らかになった場合、契約解除や損害賠償のリスクを背負うことになりかねません。譲渡企業はデューデリジェンスにおいて誠実かつ積極的に情報提供を行うことが求められます。
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デューデリジェンスは企業買収において欠かせないプロセスです。
デューデリジェンスのプロセスを適切に管理し、成功に導くためには、優秀なM&Aのコンサルタントが不可欠です。デューデリジェンスの精度を高め、M&Aの成功率を向上させるためには人材は欠かせません。
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