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AIやDX推進に関する最近のニュースを見ると、「経理は失われる職業では?」と不安に思われる方も多いかと思います。ですが、経理の仕事はなくなることはありません。ただし、仕事の内容や求められるスキル・知識は変化していくことでしょう。この記事では、経理の将来性と必要とされる人材像について説明します。
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経理の仕事が将来的になくなるとされる理由
経理が将来消えるといわれる背景には、いくつかの理由あります。それは、AIの発展や自動化ソフトウェアの向上、DX推進によるペーパーレス化、電子帳簿保存法の改正に伴う税務書類保管方法の変化などです。
参考:経理とは|仕事や向いている人の特徴や転職成功の方法、志望動機の書き方を解説
AIの発達
経理業務である伝票処理や帳簿記録、入出金の記録などでは、正確な数値や適切な処理が求められ、担当者には集中力や注意力が要求されます。このような数値や計算、仕訳などの業務は、AIが得意とする分野です。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によって、請求書発行や定型メールの送信などの業務も自動化されます。
AIやRPAの導入により、経理業務でかつて多くの時間と手間を必要としていた作業が代わりに行われます。経理業務の工数は大幅に減少し、業務効率は向上しますが、人材のポストは減少するでしょう。
中小企業においても、「IT導入補助金(※1)」や「ものづくり補助金(※2)」などの補助金制度を利用することができるため、AIやRPAの導入が益々普及することが予想されます。
(※1)参考:IT導入補助金2023
(※2)参考:ものづくり補助金総合サイト
ペーパーレス化
経理部門の縮小の一因とされるのが、ペーパーレス化です。
政府が推進するDX化の一環として、オフィス環境でも紙の使用を減らし、デジタル化が奨励されています。領収書や証明書類もデジタルデータのやり取りに移行していきます。データがデジタル化されることで、紙の書類からデータを入力する手間が省け、人がプロンプトやコマンドを入力するだけでAIやRPAが自動的に作業を行います。その結果、経理の簡単な入力作業に人手を割く必要がなくなるのです。
保存が必要な書類も全て電子データとして保管されるようになるので、ファイリングや書類検索性を考慮した保管などのタスクも不要になります。経理部門はAIやRPAを活用して効率的に業務を行い、より高度な業務に集中できる部署へと進化していくでしょう。
電子帳簿保存法の改正
2022年に改訂された「電子帳簿保存法」により、電子取引における電子データの保存が義務付けられました。この義務付けには2023年12月31日までの猶予期間が設けられており、2024年以降は電子データでの保存が必須となります。
「電子取引」とは、メールやクラウドを通じて注文書などの書類をやり取りする取引全てを指します。注文書、納品書、請求書などの証憑書類を全て電子データで保管することが求められます。さらに、「電子帳簿保存法」に基づいて、国税関連帳簿や決算関連書類は入力された電子データで保存する必要があり、取引関連書類(証憑書類等)もスキャナを使って取り込んで保存することが必要となります。
つまり、経理で作成される書類全体がデジタル化されるわけです。その結果、経理業務全般で数値処理をAIやRPAに任せることが一般的になります。これが「経理が消滅する」と言われる理由の大きなポイントです。
経理の仕事が完全になくなることはない
上述したように、これまで経理担当者が多くの時間を費やしていた業務がAIやRPAに移行していますが、経理業務そのものが消滅するわけではありません。
経理の本質は、帳簿の記録や決算書類の作成、取引関連の証憑書類の管理だけでなく、財務諸表や管理会計データの分析結果を会社全体の視点で把握することです。キャッシュフローや取引状況に問題や課題があれば、経営陣や他部門の担当者に報告し、改善や対策を提案します。そのため、「経営に密接に関わり資金の流れを管理する」経理業務は消えることはありません。
AIやRPAは、経理業務の代行ではなく、効率化と作業時間の削減を支援するツールです。これらのツールを使って、経理の本来の目的を果たす仕事を行うのは、経験豊富で優秀な人材です。
ただし、経理に必要な人材は少なくなる
経理業務は消滅しませんが、必要とされる人材数は減るでしょう。
かつての経理では、伝票処理や仕訳、帳簿入力などの集中力と注意力が必要な作業に毎日数時間が費やされていました。大企業では、処理が終わるころには新たな伝票や証憑書類が積み上がっているような忙しさでした。このために多くの人材が必要でしたが、今後は、そのような役割が不要になる可能性が高いです。
経理部門では精鋭主義が進むでしょう。経理の職にとどまるためには、単純な入力スキルだけでは厳しい時代が到来します。限られたポストを競う状況になるため、経理業務を続けるには、単なる数値処理スキルだけでなく、更なる努力と自己研鑽が求められます。
経理業務のうち今後なくなる可能性のある業務
将来的に消えるかもしれない経理業務は、何があるでしょうか。単純作業だけでなく、現金を取り扱う経費精算や預金・貯金口座管理、給与計算、財務報告書作成なども自動化の対象になります。プラス面から見ると、これらの複雑なタスクから経理が解放され、業務効率が向上すると言えます。
伝票処理
AIやRPAなどが得意とする伝票処理は、人の役割から外れるでしょう。
これまでの経理業務では、紙の伝票を1枚1枚手作業で入力していました。この作業量は膨大で、毎日の業務時間の大部分を占めていました。
書類がすべて電子化されることで、伝票の仕訳や帳簿への入力が自動化できるようになります。AIやRPAは数値処理が得意なので、精度と適切な処理が保証され、業務が大幅に効率化されます。さらに、人が行うことによる人為的なミスが減少するため、月次決算や試算表作成も容易になります。
現金出納管理
出納管理は、預金や現金の管理を担当する業務です。毎日の現金の出入りや支払い、入金をチェックし、預金残高と照らし合わせます。
かつては、経理が出金伝票を処理し、小口現金や振込で支払いを1つずつ行っていました。しかし、現金の取り扱いを止める企業が増え、小口現金管理がなくなっています。代わりに、経費や備品購入に電子決済やクレジットカード決済を利用する企業が増加しています。
取引内容が記録されることで不正を防ぐメリットがあり、今後は電子決済による経費管理が主流になるでしょう。
給与計算
給与計算には、アウトソーシングが普及しているだけでなく、給与計算システムによる自動化も進んでいます。
給与計算は全従業員が対象であり、従業員数が多い企業では大きな業務負担でした。労働時間の集計、総支給額の計算、各種保険と税金の計算と控除、給与振込、保険料と税金の納付など、業務項目が多く、正確さが求められます。
給与計算システムは、従業員の勤怠管理、給与計算、控除額の算出を行い、振込金額の計算まで自動で実行します。経理担当者は、不規則な勤怠打刻の修正や給与情報の更新などのタスクを担当することになり、従業員からの問い合わせ対応などに限定されるでしょう。
財務報告書の作成業務
会計ソフトや会計システムを利用することで、帳簿データから財務報告書が自動的に作成されるようになっています。さらに、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを用いることで、財務諸表のデータをもとに経営状況を分析する作業も容易になります。
財務報告書の作成では、正確な計算と適切な処理が必要であり、何度もチェックが必要だったり、帳簿や仕訳帳でのミスを見つけるために多くの時間がかかっていました。自動化のおかげで、財務諸表や財務分析文書を自動生成できるようになり、経理の負担が大幅に軽減されます。
年度末の決算業務では、データ作成にかかる時間が省かれるため、チェックや全体の把握と説明、監査対応、経営陣への説明対応などに専念できるようになります。
今後も必要となる経理業務
AIやRPAの普及により、経理業務の多くの手間と時間が短縮され、業務効率が向上します。それに伴い、経理人員の必要性が減少するものの、完全にはなくならない業務も存在します。
監査の補助・支援業務
決算時には、会計監査が求められます。監査には内部監査と外部監査があり、内部監査は経理部の会計担当者や専門部署が担当し、外部監査は第三者の監査法人が実施します。
会計ソフトにより財務諸表の作成が自動化されたものの、監査対応は、知識と経験豊富な経理担当者の重要な役割として残ります。
年次決算では、経理担当者は「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算表」「個別注記表」の4種類を会計ソフトで作成し、監査人の監査前にチェックし、矛盾のない状態にする必要があります。また、監査人からの質問や書類提出要求に対応する業務も重要です。
このような業務に対処するには、会計の知識とノウハウを持つ経理担当者が不可欠です。
経理システムの管理・メンテナンス
会計ソフトやクラウド型会計システム、AI、RPAは、全ての企業の経理業務に最適化されたものではありません。自社のニーズを把握できる人が、導入から初期設定まで行う必要があります。データ抽出、処理、アウトプットの設定が求められ、仕訳や台帳への記帳の確認や問題がある場合の要件修正も必要です。また、運用時のトラブル対応やサポートには、処理内容に精通した経験豊富な経理担当者が必要です。
これらの業務には、会計の知識と実務経験が不可欠であり、経理の専門知識でシステムを運用・メンテナンスできる人材は、今後も引き続き求められるでしょう。
経理データの分析
現代の企業経営では、会社の財務状況から洞察される経費や業務効率の分析結果をもとに迅速な意思決定が期待されています。
経理データ分析では、コスト分析、業務効率の評価、蓄積されたデータを利用した年次の経営状況把握などを実施し、経営意思決定に有益な情報を提供します。AIやBIツールによりデータ抽出は自動化できますが、データを適切に活用し経営課題を特定し改善策を立案するには、経理の判断力が必須です。
今後、コスト分析を通じて企業の利益を拡大する意思決定を支援する経理データ分析は、経理の重要な役割となります。
AIが発達しても経理の仕事に必要とされる人材になる方法
AIの発達により、基本的な帳簿記録や仕訳業務の大部分、数値処理やデータ解析、財務諸表作成が自動化される時代。減少しつつある経理職で活躍するためには、どのようなスキルや資質が必要でしょうか。
経理関係の法律の知識を身につける
経理業務において、関連する法律の知識が今後ますます重要になっていくでしょう。
経理業務は税務申告に関連するため、法律に従って実施する必要があります。経理に関わる法律は毎年改正されることがあり、担当者は変更内容を確認し理解することが重要です。
会計ソフトも法改正に合わせてアップデートされますが、元となるデータのフォーマット等を設定するのは人間の役割です。法の理解がなければ、伝票や証憑に必要な項目や数値処理の更新ができません。
法律や制度に関する知識を身に付けるには、税理士試験の選択科目である所得税法、消費税法、国税徴収法などの法律や、住民税、事業税、固定資産税などの税務に関連する知識を学ぶことがおすすめです。
AIを統括できる仕事ができるようにする
AIやRPAによって多くの処理が自動化され、特に数値入力やデータ分析などの分野で経理担当者の業務効率が向上していくでしょう。
AIを活用することで、帳簿や仕訳表のデータを基に必要な財務分析データを容易に作成できるようになります。今後の経理で必要とされる人材は、AIに適切な要件と指示を与え、指示の精度を高めることが求められます。求める分析結果をスムーズに取り出すためには、AIとの対話能力が高いことが不可欠です。
AIを上手に活用すれば、単純な計算や分析だけでなく、経営戦略や経営計画に関連する示唆に富んだデータを自動生成させることも可能になります。また、AIによるデータ蓄積から経営に関連する経理データの抽出も迅速に実行できます。RPAを導入する際にも、設定や要件定義、処理データの選択などは、会計の知識を持つ人が行う必要があります。
財務・会計知識の習得
経理業務においてAIやRPAが置き換える範囲は、単純な伝票処理や財務諸表作成などに限定されることをすでに触れました。AIと同等の処理スキルだけでは、経理として生き残ることは困難です。しかし、財務や会計分野の知識を習得すれば、AIを活用する立場に立つことができます。
AIやRPAに単純作業を任せ、経営方針や経営計画に関連する資金面の経理データ分析や、それに基づく提案力を身に付けましょう。そのためには、財務・会計の知識を深め、経営についても学ぶ必要があります。
資金面から企業経営を考える知識とスキルを持つことで、AIやRPAを効果的に活用し、企業を支える存在になれます。税理士や公認会計士、ファイナンシャル・プランニング技能検定などの資格も、経理として活躍する上で有益です。
グローバルな視野に基づく知識の習得
ビジネスのグローバル化は、大企業だけでなく中小企業にも進展しています。また、スタートアップの中には、国内市場よりも海外クライアントをターゲットにしたものも存在します。
海外企業との取引や、海外支社の会計監査・連結決算などの経験と知識を持つ人材は引き続き需要が高まっています。海外支社の会計では、国ごとに会計基準や税制が異なるため、それらの知識や経験が求められます。さらに、英語やその国の言語でビジネスレベルのコミュニケーションが必要なため、語学力も大切です。
将来的に希少価値の高い経理人材を目指す場合、グローバルに展開する企業での国際的な会計業務の実務経験を積むことが有効です。
経理の仕事がなくなることはないが、求められる人材となろう
AIの発達などによって経理の仕事はなくなりません。単純な数値入力や仕訳、記帳という業務の工数が削減されます。AIやRPAは、仕事を奪うものではなく、今まで集中力と注意力により大量に処理してきたタスクを肩代わりしてくれるものです。AIを上手に使う側の人材になるために、会計や財務、法律の知識を習得するとともに、プログラミングやAIの管理のためのスキルも身につけ、どの会社からも求められる人材になることを目指しましょう。
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