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近年、ITやAIの発達によって社会は大きく変化し、仕事環境も様変わりしようとしています。そんな中で、経済産業省から「リスキリング」という取り組みが推奨されましたが、メリットや方法がわからず、導入を戸惑う企業もあるのではないでしょうか。
この記事では、リスキリングの概要や導入するメリット、導入のステップや注意点などについて解説します。すでにリスキリングを導入した企業の事例も紹介しますので、ぜひ自社でリスキリングに取り組む際の参考にしてください。
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リスキリングとは?
リスキリングとは、新たに発生する業務に移行するための知識やスキルの習得を意味する言葉です。DXや第4次産業革命により、急速に働き方やビジネスモデルが変化し、企業は対応を迫られています。
IT、AIの進出により、これまで人間が行なっていた製造や事務作業などの業務をロボットに任せるケースが増加しました。これらの仕事がロボットに置き換えられることにより、無くなる仕事がある一方で新たな業務が必要になってきます。
DXのためのプログラミングやビッグデータ分析、マネジメントに関するものなど新業務の内容は幅広く、それを行える人材が不可欠です。そこで登場したのが「リスキリング」であり、これによって新たな業務に必要な知識やスキルを習得してもらうことで、別の業務に就くことができるようになります。
従業員が新たな知識やスキルを習得するために、企業が仕組み作りに取り組むことをリスキリングと呼びます。
リスキリングが注目を集めている理由
リスキリングが注目されるようになったのは、主に以下の4つの理由があげられます。
- DXの推進
- デジタル技術人材の不足
- 政府によるリスキリング支援
- 新型コロナウイルス流行による働き方の変化
業務のDX化が推進され、企業はコンピュータやAIなどを業務で活用するようになってきました。DXでは、社内でシステムを構築・管理するデジタル人材が必要不可欠ですが、そのための人材が不足している状況があります。
また、2020年のダボス会議において「リスキリング革命」が発表され、日本政府もリスキリングのための支援制度を新設・拡充すると表明しました。第4次産業革命と呼ばれる技術変化に対応するためには、人への投資が重要であり、就業者のスキルを変質させるためのリスキリングが重視されています。
さらに、新型コロナウイルス流行以降、在宅型の業務が一般的となり、これまでの働き方とは大きく変化し、新たなスキルが必要になってきました。これらの要因から、どの企業であってもリスキリングに取り組む必要性がでてきたと考えられます。
リスキリングとリカレント教育、アンラーニングとの違い
リスキリングと類似した言葉に「リカレント教育」「アンラーニング」があります。ここではそれらとの違いについて解説します。
リスキリングとリカレント教育の違い
リカレント(recurrent)は、「循環する」「繰り返す」といった意味を持つ言葉です。リカレント教育は、従業員自らの意思で、仕事を一度離れて大学などで教育を受け、また業務に戻ってくることを繰り返す仕組みを指しています。
リスキリングは、業務と並行しながら研修などを行い、従業員に新しいスキルを身につけてもらう取り組みです。リスキリングもリカレント教育も新たなスキルを身につけていく「学び直し」の意味では共通しています。
しかし、リカレント教育が個人の学びに主軸が置かれているのに対し、リスキリングは企業が社員のスキル獲得を促し、実践することに重きを置いている点が大きな違いです。
リスキリングとアンラーニングの違い
アンラーニングは「学習棄却」と呼ばれ、既存の仕事やルーティンをいったん廃棄し、新しいビジネスのスタイルを取り入れることを指します。ビジネスの変化によって、有効で無くなった知識やスキルを捨て、代わりに新たな知識・スキルを取り込むことが必要とされるからです。
アンラーニングは捨てることが主眼となりますが、リスキリングは特定の仕事に移行するために新しいスキルを獲得することが目的であり、両者は別の意味になります。リスキリングの場合は、これまで身につけた知識・スキルが無駄にならず、別の業務に取り組むためのベースとなります。
企業がリスキリングを行うメリット
企業がリスキリングを行うことにより得られるメリットはたくさんあります。ここでは主なメリットを3つ紹介します。
業務が効率化し、生産性が上がる
リスキリングで習得したスキルや知識をDXに活かせば、業務の効率化が可能です。DX化によって最新のテクノロジーやツールを活用することで、これまで手作業で行っていた業務が自動化され、大幅な時間削減ができます。
また、リスキリングに取り組めば、DXに必要な人材を社内で賄うことができるようになります。自社の業務に精通した社員が行うことで、外部の人材を採用するよりもスムーズにデジタル化を進めることが可能です。
DX化が早期に実現できれば、業務の効率化とともに組織全体の生産性の向上も期待できます。
社員のエンゲージメントが向上し、採用コストの削減につながる
リスキリングによって業務が効率化し、残業時間の削減などにつながると、ワークライフバランスを取りやすくなります。それにより社員の満足度やエンゲージメントの向上が期待できるのもメリットです。
エンゲージメントが向上すると、人材不足の解消につながります。この会社で長く働きたいという意識が高まり、離職率が低減するため、新たに人材を採用する必要が軽減するからです。そのため、リスキリングは経験豊富な優秀な社員の増加と採用コストの削減につながります。
新しいアイデアの創出につながる
リスキリングによって新しいスキルを習得すると、新たな視点で業務を捉えたり、行えることも変わってくるため、新しいアイデアが生まれやすくなります。その結果、組織全体の知識や視点の幅が広がり、時代に合った経営モデルを新しく構築することもできるようになります。
それにより、企業の競争力も向上しますし、社会の変化による事業悪化の防止が可能です。リスキリング導入によって、企業の課題解決だけでなく、新たな事業戦略の計画立案が期待できることも大きなメリットといえるでしょう。
リスキリングを導入するための5つのステップ
ここでは、リスキリングを導入するための具体的なステップを5つに分けて解説します。
リスキリングの定義や目的を明確にする
リスキリングでは、企業の目標や特徴によって習得すべき知識やスキルの内容が異なります。導入するためのステップとして、まずは自社におけるリスキリングの定義や目的を明確にすることが大切です。
組織が今後どのような業務に取り組めばよいのかイメージし、事業戦略と必要なスキルを定めます。必要となるスキルや知識に対してリスキリングを策定していきます。リスキリングでは、社員がその重要性を理解し、自主的に学ぼうとする姿勢が大切です。
リスキリングが従業員から受け入れられるためには、目的や意図をわかりやすく伝え、理解してもらう必要があります。目的をしっかり理解してもらい、企業戦略の一端を担う意識につなげることが重要です。
事業計画に基づき、現状の課題を分析する
リスキリングの目的が明確になったら、事業計画に基づいて現状の課題を分析します。分析を元に、課題を解決していくのに必要な経営戦略と人材戦略を定めます。リスキリングでは、定めた経営・人材戦略の実現に必要な知識・スキルを習得することが目標となり、基本的には全社員が対象です。
求めるスキルが高度過ぎて習得に時間や負荷がかかりすぎると判断すれば、そのスキルを持つ人材を外部から取り入れるなど、実施可能な内容を決めることが重要です。自社社員が習得することが効果的だと思われる知識・スキルを見極めるようにしましょう。
教育プログラムを定める
現状の組織課題を元に、従業員が効率良くスキルを習得できるように、効果的な教育プログラムを定めます。教育方法には研修やオンライン学習、ビジネススクールなどを利用しましょう。
現場に即したプログラムを用意するために、外部の人材に講師になってもらったり、学習コンテンツを活用する方法もあります。学習方法をいくつか用意しておくと、学習者が自分に合った方法で学べるようになり、学びの促進が可能です。
また、プログラムの構成や順番にも考慮することで、より早くスキルを習得できるようになります。
研修を実施する
研修プログラムができたら、準備が整い次第実施していきます。その際には個人面談などを通して社員が希望する領域やキャリアをヒアリングしたり、定期的なフィードバックを繰り返すことが重要です。
リスキリングは通常業務と並行して行うため、社員にはその分の負荷がかかります。過剰な負荷によって、業務や健康面に影響を及ぼしていないか注意・観察することが必要です。フィードバックで習得度を測る際に、負荷がかかりすぎているようなら習得プロセスの見直しも検討しましょう。
研修内容を現場で活かしてもらう
研修で学んだことを実践するため、現場で活かせるような機会を設けることが肝心です。実践する場がないと宝の持ち腐れとなり、リスキリングの目的が達成できません。
実践の結果に対してフィードバックする流れを取り入れ、「学び→実践→フィードバック→改善」のサイクルを回せるような仕組みを作ります。このような仕組みがうまく進められると、スキルの定着や向上につなげられるようになります。
また、部署やチーム内で新たに習得したスキルを実践することで、学んだことがさらにステップアップできるようになるでしょう。
リスキリングを導入する上での注意点
リスキリングをスムーズに導入するために、以下の点に注意しましょう。企業ごとに行う内容は違っても、注意点は同じです。
社員の自発性や自主性を尊重する
リスキリングは、これまでの業務とは異なることを学ぶため、社員にとっては大きな負荷がかかります。本人の学ぶ意欲が大切であり、継続し習得するためには自発性や自主性を重んじる必要があります。
リスキリングを実施する際は、対象者を挙手制にするなど、本人の希望や意志を尊重し、キャリアプランとマッチするよう心がけましょう。学習者がリスキリングに取り組む目的を明確にすることで、習得がスムーズになります。
リスキリングで習得した知識・スキルを活用できる、新たなキャリア・部門を創設することも重要です。
社内体制を整える
リスキリングを成功させるためには社内で協力する体制を整えることが重要です。部署やチーム内にリスキリングの目的や必要性をしっかり伝えることで、周囲からの理解を得て、学習者を助け合う風土を醸成することができます。
また、リスキリングで学んだことを部署やチームで共有したり、一緒に実務で実践することで学びの質が向上し、スキルを有効に活かせるようになります。社内全体で新たな事業戦略に取り組む意識が高まり、早期に目的が達成できるようになるでしょう。
モチベーションを維持できる仕組みを作る
新しく知識やスキルを身につけるためには、ある程度の時間がかかります。人により習得までの時間には個人差があるため、途中でモチベーションが下がる人もいますので、維持できるような仕組みを作ることが必要になります。
インセンティブ制度を設けたり、定期的なフィードバックの実施によって成長を実感できるようにしましょう。新しいスキルを使った業務の成果を共有するため、学習者同士で定期的に交流する機会を設けることも有効です。
社員の声を聞いて、リスキリングの運用を改善していくことも重要ですので、運用担当者は積極的に情報を取集していきましょう。
リスキリングの導入事例
ここでは、リスキリングの導入事例を紹介します。これらの企業は、リスキリングが注目される前からその重要性に気づき、組織全体で導入を進め、事業展開につなげてきました。
日立製作所
日立製作所は、デジタルによって業務や組織を変革するため、デジタル人材の強化に重点を置いています。デジタル人材を育成するため、2019年にグループ内の研修機関を統合し、新会社「日立アカデミー」を設立、日立グループ全体でリスキリングに取り組んでいます。
全社員16万人を対象としたDXの基礎教育プログラム「デジタルリテラシーエクササイズ」などをオンラインで実施しており、いつでも学習が可能です。これによって、従業員が自分の関わる領域でどのようなデジタル化が可能であるか、構想できることをねらいとしています。
住友商事
住友商事グループは、2018年にデジタル事業本部に「DXセンター」を立ち上げました。DXを通じて社会課題を解決すべく、デジタル技術を掛け合わせることで新たな価値創造を図ったり、幅広い産業を横断してDXに取り組んでいます。
住友商事グループは、リスキリングによって社員のスキルアップとキャリア形成を支援しており、リスキリング対象者は周囲の理解を得て、自己成長を図ることが可能です。同社の積極的な事業変革やDX浸透への姿勢は社会的にも評価され、さらなる価値の創造に向けて取り組みが進められています。
ワークマン
ワークマンは、2012年から、データを活用するためのエクセル研修をリスキリングとして全社員に実施しています。これにより、データの分析を外部に発注せずとも、全社員が売り上げ結果の分析・検証ができるようになり、改善につなげられるようになりました。
一般的に普及し、社員が使い慣れているエクセルを利用することで、リスキリングに対する抵抗感を下げ、社員は他職種でも通用するような深い知識・スキルを身につけることができます。データの分析・検証を外部に委託することなく社内で完結することで、大幅にコストを削減でき、新規事業への進出もスムーズにできるようになりました。
リスキリングを正しく導入し、自社の成長につなげよう
リスキリングは、社会の変化に伴って、新たなビジネススタイルを構築するために避けては通れないプロセスです。リスキリングによってDX化を実現できると、企業は効率性や生産性の向上を図ることが可能です。社員にとっては新たな知識やスキルを身につけることができ、スキルアップやキャリアアップにつながります。
第4次産業革命の波は待ったなしで訪れています。時代に取り残され、事業が悪化しないように早急に取り組むことが重要です。それぞれの企業が独自の方法でリスキリングに取り組む必要があるため、導入ステップや注意点を参考に自社ならではのリスキリングを考えましょう。