目次
ニュースなどで、TOBという言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
TOB(株式公開買付)は、他の企業を買収する方法の一つです。対象となる企業の株式を保有する不特定多数の投資家から株式を買付けることで、経営権の獲得を目指します。株主にとっては、株を高価格で売却できるチャンスになる一方、対象となる企業側にはさまざまなリスクが伴います。
今回は、TOBの目的や種類、買主・売主それぞれの立場でのメリットやデメリット、TOBの手続きの流れ、ルールなどについて解説します。
※時間がない方へ・・記事を読む時間が無い方でバックオフィス系の転職を検討中の方は、まずは「WARCエージェント」に無料登録してみましょう!
TOB(株式公開買付)とは?
TOBは「Take Over Bid」の略語で、日本語では「株式公開買付」を指します。
不特定多数の者に対して、対象となる企業の株の買付価格や買付の期間などを公示し、投資者保護の観点に立った要件のもと、その保有する株券等を売ってくれるように勧誘し、取引所外でそれらの株券等を買付けるということです。
一般的にTOBを行う側は「公開買付者」、対象となる企業側は「対象者(対象企業)」と呼ばれます。
TOBされたらどうなる?
では、会社がTOBされたらどうなるのでしょうか。買い手となる企業(買主)は、買収の対象となる企業(売主)の全てを把握できているわけではない中、経営者が変わることによりさまざまな変化が起こることが想定されます。たとえば、社風、役員待遇、社員待遇、人事制度、福利厚生です。
TOBを受けて子会社化された場合、買主側の経営方針や社風に統合されるケースが一般的です。全く異なる企業同士が統合するため、時間をかけて徐々に変化させ、社員の退職などに繋がらないようにすることが求められます。
そのため、社員待遇や人事制度などは、悪くなる方に変わるケースは少ないでしょう。とはいえ、買主の方針によるところが大きいため、働き方や役割など、従来通りではなくなる傾向にあります。
TOBの目的
TOBの主な目的は、対象企業の買収や子会社化など、経営権を取得することです。会社法では、持ち株比率によって以下のような権利を取得することができます。
100%3分の2以上(66%以上) | 完全子会社化株主総会の特別決議を単独で可決できる(特別決議:会社の合併、事業譲渡の承認など) |
50%以上 | 株主総会の普通決議を単独で可決できる(普通決議:取締役の選任・解任、配当など) |
3分の1以上(33%) | 特別決議を単独で阻止できる |
3%以上 | 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる |
1%以上 | 株主総会における議案提出権がある |
TOBは、対象となる企業の経営陣が経営の見直しや上場廃止などのため、自社の株式を買い集めるケースもあります。
TOBの種類
TOBは、友好的TOBと敵対的TOBの2つに分けられます。それぞれに手法や目的が異なるため、ここでは、それぞれの違いを紹介していきます。
友好的TOB
友好的TOBは、買収の対象となる企業の経営陣と協議し、合意の上で実施するTOBのことをいいます。日本で行われるTOBのほとんどは友好的TOBです。グループ企業同士の再編や、良好な関係にある企業同士が親会社と子会社の関係になることを目的として行われます。
そのため、経営陣が引き続き経営に関わることがあります。
友好的TOBは、株主にとっても買収後のビジョンが明確であり、株価の安定や上昇が期待されることが多いといえます。
敵対的TOB
敵対的TOBは、買収の対象となる企業の経営陣と協議せず、または経営陣の反対を押し切って株式を取得するTOBのことをいいます。
敵対的TOBは、ライバル企業によって行われることが多く、対象となった企業はTOBの公表によって事実を知ることになります。もともとの合意がないため、買収を仕掛けられた企業は阻止しようとするのが一般的です。
買収後も、それぞれの経営陣の間で関係が悪化する可能性があるため、敵対的TOBの成功例は少ないといえるでしょう。
敵対的買収に対抗する買収防衛策
買収防衛策とは、敵対的買収に対抗するため、防衛手段として実施される対策です。主なものは以下の通りです。
1)逆買収する(パックマンディフェンス)
TVゲームのパックマンのように、敵対的TOBを仕掛けられた企業が買収してきた企業に対し、逆にTOBを仕掛ける方法です。
2)第三者によって買収してもらう(ホワイトナイト)
敵対的TOBを仕掛けられた企業が、友好的な第三者に依頼し、大量に株式を取得してもらう手法です。敵対的TOBが行われることが発覚した後でも実施できる防衛策です。
3)企業価値の引き下げる(クラウンジュエル)
敵対的TOBを仕掛けられた際に、対象となる企業が収益性が高い事業や価値のある資産を売却し、買収者の買収意欲を削ぐ防衛策のことです。
4)新株予約権を発行する(ポイズンピル)
既に自社の株主となっている人たちに事前に新株予約権を発行することで、買収者の株式保有割合を下げ、買収コストを上げる防衛策です。
TOBする買主のメリット
では、TOBにおいて、買収を仕掛ける側となる買主のメリットは何でしょうか。TOBは一定の条件を満たすことで義務として強制される買付方法ではあるものの、買主側にとっては以下のようなメリットが見込まれます。
買収計画を立てやすい
通常、証券取引市場を通して大量に株式を買付ける場合、自身の買い注文が原因で株価の急激な上昇が起こり、最終的に予想以上の費用で株式を買付けることになる可能性があります。株式取得に要する費用が最後まで読めないという不確定要素は、その後の計画に影響を及ぼすこともあるでしょう。
一方、TOBはあらかじめ期間・金額・株式数を決めて公開・実施するため、かかる費用が算出しやすく、買収計画の見通しが立てやすいといえます。
株価変動の影響を受けにくい
前述の買収計画にも関連するところになりますが、TOBはあらかじめ公開した価格で株式を買付けるため、市場変動の影響を受けにくいというのもメリットの一つです。
通常、証券取引市場を通して買付ける場合は、株価の変動によって想定外の費用や時間がかかることもあります。その点、TOBの場合は市場価格を元に算出されるものの、途中で価格が変わることがありません。
目標に達しなかったら取引を中止できる
このほか、目標に達しなかった場合取引を中止できる点もメリットに挙げられます。
募集株式数には、上限(最大発行数)と下限(最小発行数)の設定があります。これにより買主側は、必要数に達しないもしくは超える場合は買付けをやめるという判断が可能になり、効率的な株式の取得ができるのです。
ただし3分の2以上の株式を上限にすることはできず、3分の2以上の株式取得を望む場合は全株式を取得しなければならないという「全部買付け義務」が発生するため注意が必要です。
TOBする買主のデメリット
もちろん、買収にはメリットだけでなくデメリットもあります。TOBを実施する際、買主のデメリットには何が挙げられるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
市場価格よりも買付価格が高くなる
TOBのデメリットとして、市場価格よりも買付価格が高くなる傾向にあることが挙げられます。
TOBする際、買付け価格は市場価格よりも高めに提示されるのが一般的で、この上乗せ分は「プレミアム」と呼ばれ、市場価格の約30〜40%割増が相場となっています。
買収の対象となる企業は、市場価格よりも高い価格を提示されることで売却の決断がしやすくなるため、このような価格設定をするのです。
敵対的TOBは成功しづらい
敵対的TOBの場合は、買収の対象となる企業が抵抗するため、友好的TOBに比べて買収の成功率が低い傾向にある点もデメリットになるでしょう。
敵対的TOBは、一般的に「乗っ取り」とネガティブなイメージに捉えられるため、対象企業の経営陣や主要株主から、反発や拒否を招きます。そのため株主の賛同を得るのが難しくなり、50%を超える株式の取得を断念せざるを得なくなります。また、取得できたとしても、株式取得資金が友好的TOBに比べ、多額になる傾向があります。
TOBされる売主のメリット
反対に、TOBされる側にあたる売主にとってのメリットは何でしょうか。たとえば、株の売却価格が高くなる可能性や経営改善が見込まれる点が挙げられます。
市場価格よりも高く株式を売却できる
前述の通り、TOBにおける買付け価格は、市場価格にプレミアム分を上乗せするのが一般的です。買主としては、市場価格よりも高い価格で株式を買い付けなければならなくなるのがデメリットになるということは、ここまでに説明した通りです。
これが売主側の立場になると、反対に、自社株を市場価格よりも高く買い取ってもらえるというのは大きなメリットになります。
友好的TOBでは経営状況の改善などのメリットが期待できる
友好的TOBの場合、対象となる企業側が受けられる最も大きなメリットとして、経営改善への期待があげられます。
買主からの資金が投入されることにより、経営基盤の安定と経営状況の改善が期待できます。買主からの資金によって売主側は、今まで資金不足で着手できなかった新規事業展開や設備投資を行える可能性があるのです。
また、自社よりも資金力を持ち経営基盤が強固な企業に買収されることで、経営の根本的な改善に尽力することもできるでしょう。
TOBされる売主のデメリット
続いて、TOBされる売主にとってのデメリットを紹介します。デメリットは、経営権といった会社全体の問題と、報告書の作成などの事務的なものが挙げられます。
経営権を失う
TOBを行う企業の目的は、対象となる企業の経営権を取得することにあるため、TOBが成立すれば当然ながら対象企業の経営陣は、経営権を奪われることになります。
友好的TOBの場合でも、経営陣の交代などがある可能性があります。
また、敵対的TOBの場合は、今まで推進してきた事業を縮小されたり、掲げている経営方針とは異なる方向に転換されたりすることも考えられます。このような事態を回避するため、敵対的TOBを仕掛けられた企業は阻止しようとするのです。
意見表明報告書を提出しないといけない
TOBの対象となった企業は、公告日から10営業日以内に、買主となる企業の申請手続きに対して賛成か反対か立場を表明した「意見表明報告書」を内閣総理大臣に提出する義務があります。
意見表明報告書は、株主がその後投資判断を行う際の重要な手掛かりとなります。きちんとした文面を作成したり、提出の手続きをしたりと、提出にあたって対応に時間を割く必要があります。通常業務に加えて業務が増えるという点は、デメリットに挙げられるでしょう。
TOBの対象になった売主がすべきこと
では、自社がTOBの対象になった場合、何をしなければならないのでしょうか。ここでは、TOBに応じる場合と応じない場合、それぞれの場合での売主の動きについて解説します。
TOBに応じる場合
TOBに応じる場合、買収の対象となる側はプレミアムが付いた価格で株式を売却できる可能性があります。この場合、市場価格よりも30〜40%程度高い価格になることが一般的です。また、TOBに応じる場合は、証券取引所を通して売却した際にかかる売買手数料がかかりません。
ただし、買主となる企業が買付ける株式数に上限を定めている場合は、TOBに応じても売却ができない可能性があります。TOBが公表されたら、全株式買付か一部株式買付かの確認が必要です。
TOBに応じない場合
TOBに応じずに取引市場で株式を売却することを選んだ場合には、「証券取引所を通じて株式を売却する」または「株式の保有を継続する」という2つの選択肢が考えられます。
証券取引所を通じて株式を売却する場合、TOBの実施後は、敵対的TOBや物言う株主の参入などの要因で株価が大きく変動する可能性があります。
また、今まで通り株式を保有する場合も、買主となる企業が個人投資家の保有する株式を強制的に取得するなど、結果として株式を手放さなくてはならなくなることがあります。
TOB手続き完了までの5ステップ
TOBの手続きは、大きく分けて5つのステップで完了します。買主となる企業と売主となる企業で、それぞれ提出しなければならない書類があるため、確認しておきましょう。
①公開買付開始の公告・公開買付届出書の提出【買主】
株主に対し公平な売却機会を与えるため、公開買付け者はTOBに関する情報を記載した公開買付け届出書を提出します。公開買付け届出書には、以下の内容を記載します。
- 公開買付けの目的
- 買付け期間
- 買付け価格
- 買付けを申し出る株主に対する支払い方法
- 買付けを申し出る株主からの株式の申し出を受け付ける方法
- 買付けを実施した後の株式の所有権の移転方法
買付け期間は、株主が売却を検討するために必要な期間として20〜60営業日と定められています。
②意見表明報告書の提出・回答【売主】
TOBの対象となった企業は、公告日から10営業日以内にTOBに対して同意するか拒否するかの立場を表明した「意見表明報告書」を内閣総理大臣に提出します。
意見表明報告書とは、買収先企業が買い付けを実施する前に、TOB対象企業の株主からの意見を受け付けるために提出される書類です。意見表明報告書は写しを作成し、買主側の企業や金融商品取引所等にも送付します。
報告書には意見のほか、公開買付け者に対する質問を記載することもできます。
③対質問回答報告書の提出【買主】
売主から意見表明報告書を通じてTOBに関する質問があった場合、買主となる企業はその質問に対する回答として「対質問回答報告書」を作成しなければなりません。対質問回答報告書は、内閣総理大臣へ5営業日以内に提出する必要があります。
また、対質問回答報告書も、意見表明報告書と同様に写しを作成し、売り手企業や金融商品取引所に送付します。
④TOBの結果公表【買主】
公開買付者は、公開買付期間が終了した月の末日び翌日に、買付の内容結果を公告または新聞やメディアを通じて公表します。買収希望者が希望する数の株式数を確保できた場合、TOBは成功となります。
TOBの結果公表には、以下のような情報が含まれます。
- TOBを実施した理由
- 買い付け期間や買付け価格
- 買い付けを申し出た株主の数や申し出た株式の数
- 買い付けを実施した株式の数や買付け価格
- 買い付けを実施した後の株式の所有比率
⑤株式の移転【両者】
公開買付け者は、売却する意志を示した株主から株式を買い取ります。
公開買付けによって株式が公開買付け者に移転され、代わりに株主には公告された条件の対価が支払われます。
買付けが終了すると、新たな株主として買付けた側が経営に参画できるようになります。
TOB実施をする際のルール
このように、TOBによって株式を取得する際には一定のルールがあります。買付け後の所有割合が3分の1を超える場合と、買付け後の所有割合が5%を超える場合で、それぞれ「1/3ルール」「5%ルール」と呼ばれています。
3分の1ルール
3分の1ルールとは、買付け後の対象企業の株式の所有割合が3分の1を超える場合は、TOBによる買付けを行わなくてはならないというルールです。
株主総会の特別決議は3分の2の賛成で可決されるため、3分の1以上株式を保有すると特別決議をいつでも否決することが可能になります。
これは、少人数に対する買付けでも適用され、極端な例では、もともと3分の1以上の株式を保有している企業が、市場外で新たに1株のみ買付けた場合でも適用されます。
5%ルール
株式の買付によってその会社の株式の保有割合が5%を超える場合も、TOBによって買付けを行わなければならないと定められています。
株式を5%以上保有する株主は、株価や経営に与える影響が大きいと考えられることから設定されており、「5%ルール」と呼ばれています。
ただし、5%ルールには例外があり、買付けを行う人数が10人以下と非常に少ない場合は、条件によってTOBを行わなくてもよいケースもあります。
TOBはメリット・デメリットについて理解を深め、慎重な実施が必要
TOBはあらかじめ期間・金額や株式数を決めて公開・実施されるため、買主となる企業にとっては計画通り株式の買付けがしやすく、予算外の多額な費用をかけないように、上限と下限を設定できることが大きな特徴です。
また、売主となる企業にとっては、通常の市場価格より高い価格で株式を買ってもらえるチャンスとなる一方、親会社の意向により社風や役員待遇などが大きく変わる可能性もあります。
TOBを検討する場合は、専門家と連携し慎重に進めるようにしましょう。